加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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原告は7億3,000万円で何を買ったのか① 「弁護士13人が伝えたいこと 32例の失敗と成功」(日本加除出版、2018年)より

日本加除出版より2018年に出版されました「弁護士13人が伝えたいこと 32例の失敗と成功」より、弁護士加藤真朗による執筆部分を掲載いたします。

1 はじめに

私が、イデア綜合法律事務所開設間もない頃に、パートナーであった現大阪市長(注:刊行時。現大阪府知事)の吉村洋文弁護士と共に闘った思い出深い事件である。

依頼者はA県所在の建設会社X社、相手方はいくつかの事業を営むY氏であった。

相談内容は、約10年前にB県某島所在の空港予定地を含む土地約50筆をY氏から7億3、000万円で購入したが、購入目的の一つである空港用地のB県への転売は実現せずに安価で収用され、最大の購入目的であった空港工事参入も叶わず、土地代金支払いの一部としてY氏に対し交付した白地手形3億4,000万円について支払いができず、長期にわたって利子を支払い続けているが、最近はY氏がX社の経営を譲るように示唆してくるので、何とか白地手形を取り返せないか、というものであった。

顧問弁護士などに相談したが、「白地手形を取られている以上どうしようもない」旨の回答ばかりだったとのことで、紹介により、社長と専務が私のところに相談に来られた。

2 調 査

社長、専務によると、X社とY氏との間では一切契約書は作成されていないとのことであった。また、Y氏の「裏金」との指示で、土地代金についても白地手形3億4,000万円を除く3億9,000万円は現金で交付しており、領収書もないとのことであった。毎月の利子についても同様とのことであった。さらに、売買対象土地の登記名義もX社に移転していないとのことであった。

嫌な案件である。

Y氏からX社に対し交付された資料は相当な分量が存在した。売買対象となった土地の地図や登記簿謄本が含まれていたことから、土地の売買が実在したように思われた。もっとも、新たに取り寄せた登記簿謄本では、登記簿上の所有者はほとんど従来の土地所有者名義のままであり、Y氏やY氏の経営する会社名義になっているものさえ稀であった。

Y氏の説明によると、大物政治家(当時すでに故人)の元秘書であったというC氏が、空港建設の情報を入手し、某島の土地所有者達から空港予定地の土地を買い集め、それをY氏に譲った。資料にも含まれていたが、Y氏の経営するZ社がC氏らに対し金銭を貸し付けたとする金銭消費貸借契約書(兼抵当権設定契約書)が、Y氏が当該土地を所有する証拠であるとのことであった。

他に、資料の中には、空港建設計画に関する文書、新聞記事などが存在したため、X社社長らの話どおり、空港予定地をめぐる土地売買がなされたと考えることができた。

また、現金で支払われた売買代金等の原資も証拠上明らかにできそうであった。

しかし、肝腎の白地手形を取り返す法律構成は、すぐには見つからなかった。

X社は空港予定地のB県との買収交渉についてY氏に任せていたところ、土地は収用されてしまった。そこで、Y氏の勧めに従って、行政訴訟を提起しているとのことだった。

実際には、訴訟提起していると言っても、X社は土地の名義人ではなく、訴訟の当事者ではない。弁護士もY氏の顧問弁護士であり、X社関係者が弁護士との打合せに同席することもなく、X社はY氏の指示に従って弁護士費用を支払っていただけであった。

Y氏からX社に交付された訴訟記録は極僅かしかなかったが、裁判所で訴訟記録を閲覧すればよかった。

私たちは、飛行機で裁判所所在地まで飛び、訴訟記録を閲覧した。

多数の証拠が提出されていたが、注目すべきはB県側から提出されたY氏と県担当者との間の交渉記録であった。Y氏は、X社に対し、空港用地を購入すれば、県に少なくとも5億円で転売できる、また、空港工事に参入できると勧誘していた。ところが、県の交渉記録では、X社に対する空港用地売却以前に、県担当者からは土地買取り価格の引上げも、工事参入も困難だと明言されていたのである。

法律構成で悩んでいたが、道は開けた。詐欺でいける。(②へ続く)

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弁護士13人が伝えたいこと | 日本加除出版 (kajo.co.jp)

世代も専門も異なる13人の弁護士が、担当した事件の中から印象に残る32例の事件をストーリー形式で紹介。成功事例だけでなく失敗事例も収録。

事件処理のポイントとなった行動から独自の工夫、当時の心境まで、事件の経過を振り返りながら語られ、どのように考えて事件に取り組み、解決に向けて苦悩したのかなど、各弁護士の経験と知恵がこの書籍に収録されている。

特に若手弁護士に読んでいただきたい書籍としてご好評をいただいており、司法修習生や法科大学院生といった弁護士を目指す方はもちろん、弁護士の仕事に興味のある方など、幅広い方に手に取っていただきたい一冊。

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