加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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原告は7億3,000万円で何を買ったのか② 「弁護士13人が伝えたいこと 32例の失敗と成功」(日本加除出版、2018年)より

日本加除出版より2018年に出版されました「弁護士13人が伝えたいこと 32例の失敗と成功」より、弁護士加藤真朗による執筆部分を掲載いたします。

3 白地手形

最大の問題が、白地手形の存在である。白地手形を取立てに回されると、不渡りを出してしまう。そこで、手形取立禁止等仮処分命令を申し立てた。白地手形であることから、主文に、「第三債務者(支払場所金融機関)は、上記手形に基づき債務者ら及び手形所持人に対して支払いをしてはならない」と、「債務者」と「手形所持人」の両方の文言を入れてもらった。

もっとも、異議申立提供金の問題は払拭できない。X社は売上数十億円規模の会社であり、すでにY氏に対して売買代金の一部3億9,000万円等を支払っていたこともあって、財務状況は芳しくなかった。

そこで、我々は白地手形の回収にチャレンジすることとした。

Y氏と親交の篤かったX社専務の推測では、白地手形の保管場所は、Y氏の自宅である可能性が高いとのことであった。そこで、Y氏の自宅、Y氏の事務所2か所の計3か所について保全執行することとした。また、我々は、本案勝利後の回収のために不動産、動産、債権について仮差押え命令を申し立てており、白地手形に加え現金の仮差押えも狙っていた。私は自宅、吉村はメインの事務所と手分けして同時刻に保全執行を開始することとした。

平日の午前中、静かな住宅街に人影はなかった。Y氏の自宅は、新築後数年程度しか経っていないと思われる立派な和風建築であった。

執行官が呼び鈴を鳴らしたが不在であったため、同行した鍵屋に解錠してもらい、執行官と私は内部に入った。目的の金庫は比較的早く見つかった。

しかし、玄関の錠と異なり、金庫の鍵がなかなか開かない。緊迫した時間が流れた。鍵屋がホッとしたように表情を弛めた。鍵が開いた。白地手形はあるのか、金庫の中を探った。

X社を振出人とする2億5,000万円、8,000万円、1,000万円という3通の白地手形が見つかったとき、私の頭の中には「ミッション:インポッシブル」の旋律が流れていた。

4 裁 判

保全異議において、Y氏の主張が明確になった。

Y氏はX社との契約の成立自体は認めた。ただし、当事者はZ社、売買の対象は某島における砕石事業との主張であった。こちらが心配していた金銭の授受については否定しなかった。

我々は、砕石事業というのは、当時C氏が経営していたとのことで、Y氏から購入を勧められたが、X社は断り、本件土地売買に至ったと聞いていた。問題は、Y氏と個人的に仲が良かったX社専務が、Y氏に強く勧められ、個人的に砕石事業に一部出資していたことである。そのため、Y氏側からX社(専務)が砕石事業に関与しているかのような証拠が提出された。C氏の砕石事業はすでに破綻しているようで、某島においては別の砕石会社が細々と事業を継続しているようであった。

我々は、Y氏から交付を受けた資料や、23条照会、関係者を当たるなどして新たに取得した資料を証拠として多くの間接事実を主張し、売買当事者はZ社ではなくY氏、売買対象は砕石事業ではなく土地であると争った。

保全異議、保全抗告と順調に勝利し、本案訴訟を提起した。提訴時の甲号証は300弱あった。

第一審が係属したA地裁では大きな事件であったのであろう、相当慎重な審理を経て尋問を迎えた。当方3名、Y氏側から4名であった。Y氏側の証人としてC氏が出廷することになり、我々は警戒した。売買当時のC氏の砕石事業についてはほとんど状況が分からず、C氏の証言を弾劾する材料に乏しかったからである。

C氏は、法廷で流暢に話し続けた。著名な政治家の名前も出てきて、興味深いものであった。

尋問を経ても、私は、保全異議、保全抗告と同様に、勝てるものだと思っていた。(③へ続く)

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弁護士13人が伝えたいこと | 日本加除出版 (kajo.co.jp)

世代も専門も異なる13人の弁護士が、担当した事件の中から印象に残る32例の事件をストーリー形式で紹介。成功事例だけでなく失敗事例も収録。

事件処理のポイントとなった行動から独自の工夫、当時の心境まで、事件の経過を振り返りながら語られ、どのように考えて事件に取り組み、解決に向けて苦悩したのかなど、各弁護士の経験と知恵がこの書籍に収録されている。

特に若手弁護士に読んでいただきたい書籍としてご好評をいただいており、司法修習生や法科大学院生といった弁護士を目指す方はもちろん、弁護士の仕事に興味のある方など、幅広い方に手に取っていただきたい一冊。

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