加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例-非上場会社の株式の譲渡の承認にかかる売買価格決定の申立てにおいて、折衷法(DCF法35%:純資産法35%:配当還元法:30%)による評価方法が採用された事例(東京都観光汽船株式売買価格決定申立事件)-

非上場会社の株式の譲渡の承認にかかる売買価格決定の申立てにおいて、折衷法(DCF法35%:純資産法35%:配当還元法:30%)による評価方法が採用された事例

(東京都観光汽船株式売買価格決定申立事件)

東京地決平成26年9月26日 金判1463号44頁

 

第1 決定の概要

 本件は、2名の株主によって非上場会社(非公開会社でもある。)の株式の譲渡の承認にかかる売買価格決定の申立てがなされた事案において、当該株式の売買価格の算定に妥当するべき評価方法が争点とされ、結論として、折衷法(DCF法35%:純資産法35%:配当還元法:30%)を採用した事例である。

 

第2 事案の概要

 A社は、非上場会社(非公開会社でもある。)である。X1及びX2社(Xら)は、それぞれ、A社の普通株式15万株を保有する株主である。

 Xらは、A社に対し、A社株式合計30万株(議決権総数の24.4%。本件株式)を第三者(中国企業)に譲渡することの承認を求めたが、A社はそれを承認せず、Y(産業用製品の市場拡大に貢献することを目的とする一般社団法人)を買取人として指定する旨をXらに通知した。

 これを受け、Xらは、本件株式の売買価格決定の申立てを行った(なお、その2日後には、Yからも同内容の申立てがなされている。)。

 本件における争点は、本件株式の算定方法である。

 Xらの主張は、収益還元法を前提に、1株当たりの株価を1439円とすべき、というものであった。

 他方、Yの主張は、併用方式(配当還元法7:取引事例法1:DCF法1:清算処分時価純資産法1)を前提に、1株あたりの株価を90円とすべき、というものであった。

 そして、双方当事者の鑑定申出を受けて裁判所が選任した鑑定人よって行われた鑑定(裁判所鑑定)は、併用方式(DCF法3:再調達時価純資産法3:配当還元法2)を前提に、1株あたりの株価を800円とする内容のものであった。

 

第3 決定の要旨

 1 本件に妥当しうる算定方法について

 本決定は、本件に妥当しうる算定方式が何であるかにつき、以下のとおり、⑴抽象的なレベル(収益法、純資産法、比準法のいずれを採用するべきか)と、⑵具体的なレベル(⑴を前提に、具体的に、いかなる方式をいかなる割合で採用するべきか)の二段階に分けて論じている。

(1)第一段階の判断(収益法、純資産法、比準法のいずれを採用するべきか)

ア 比準法が妥当でないこと

 取引事例法を採用するためには、比較対象となる取引事例の、①取引量が同等であること、②取引時点が比較的直近であり、その間に経営・業績等に大きな変化がないこと、③取引が独立した第三者間で行われ、取引件数がある程度存在することが条件となる。

 本件においてYの主張する取引事例は、わずか1件であり、その取引量(5万株)も本件と程度が異なる(上記①③の条件を欠く。)。

 そのため、取引事例法は採用できない。

イ 収益法を第一次的に採用すべきであること

 A社は、創業明治31年であり、直近5期の財務状況をみても、安定した水準の売上高があり、利益を上げている。

 それゆえ、A社の事業継続性に疑義が生じるような事実は認められず、A社が清算に至る事態は想定されない。

 したがって、継続企業を評価する際に用いられる収益方式を第一次的に採用すべきである。

ウ 純資産法をも考慮すべきこと

 一般論として、A社は、中小規模の企業であり、大企業と比べると組織化率が低く属人性が高い、資金力が弱い、外部環境の変化に相対的に弱い等の事業リスクがある。

 具体論としても、A社の主要事業(水上バス事業)には、乗客数の低下といった外部環境の影響や、船舶の建造費といった事業継続コストの影響により収益性が減退するおそれがある。

 したがって、収益法のみならず、静的価値に着目した純資産方式も考慮すべきである。

 もっとも、事業継続性に疑義は生じるような事実は認められないのであるから、継続企業を前提とする再調達時価純資産法を採用すべきである。

(2)第二段階の判断((1)を前提に、具体的に、いかなる方式をいかなる割合で採用するべきか)

 第二段階の判断について、本決定は、「本件は、本来であれば売主と買主の双方の合意あるいは協議により定められるはずの本件株式の売買価格の決定が求められているのであるから、特段の考慮事情がない限りは、売主、買主の双方の立場に立って検討するのが相当である」と論じたうえで、売主・買主の各立場を踏まえ、以下のとおり述べた。

ア 買主(Y)の立場での検討

 以下の理由から、Yは、「支配株主と一体の立場に立つ買主」と評価すべきである。

① A社がYを買取人として指定していること。

② A社の経営陣かつ支配株主である者から資料の提供を受けて本件事件を遂行していると認められること。

 支配株主の保有する株式の価値は、会社全体の価値を基礎に評価するのが相当であるから、DCF法0.5:純資産法0.5併用方式が相当である。

イ 売主(Xら)の立場での検討

 Xらの議決権比率は24.4%であり、支配株主とは言えないものの、単なる一般株主とも言えない。「支配株主と一般株主の中間的な立場に位置する株主」である。その株式の価値を求めるにあたっては、配当還元法0.6:DCF法0.2:純資産法0.2の併用方式が相当である。

ウ 結論

 買主・売主は対等の立場にあるから、買主の立場からの評価方法(上記ア)と、売主の立場からの評価方法(上記イ)を1:1で反映させるのが相当である。よって、DCF法0.35%:純資産法0.35:配当還元法0.3の併用方式が相当である。

 

 2 Xらの主張について

 Xらの主張につき、本決定は、以下のとおり述べ、それらを排斥した。

(1)A社は合理的根拠に基づく確実性のある事業計画を有しておらず、A社の将来のフリー・キャッシュ・フローを予測することは困難であるから、収益法をとる場合は収益還元法を採用するべきであるとの主張について

 会社が事業計画を作成していない場合やその事業計画がフリー・キャッシュ・フローの予測に使用できる内容になっていない場合においても、過去3年から5年程度の会社の財務実績データを基礎としてフリー・キャッシュ・フローを予測することが可能である。

 したがって、事業計画の不存在は、DCF法を採用することの妨げにはならない。

(2)A社は配当が政策的に低位で抑えられ、社内留保が過大に行われている会社であるから、配当還元法が採用されるべきでないとの主張について

 A社は、過去10年度にわたり、1株あたり7.5円の配当(配当総額922万円5000円~921万7500円)を実施しているところ、過去の事業年度においては純損失を計上したことや、上記配当金総額に満たない利益しか上げられなかった事業年度もあることがうかがわれる。

 したがって、配当が低位に抑えられ、社内留保が過大に行われているとまではいえない。

(3)Xらは企業価値評価ガイドライン[1]における有力株主に当たり、拒否権及び取締役選任についての累積投票請求権も本件株式売買の目的物になるのであるから、配当還元法が採用されるべきでないとの主張について

 Xらの議決権比率は24.4%に過ぎず、経営権を支配しているとはいえない。

 したがって、売主の立場からの評価としては、配当受益権の側面を重視した配当還元法をも考慮すべきである。

 

 3 Yの主張について

 Yの主張につき、本決定は、以下のとおり述べ、それらを排斥した。

(1)競合業者との競争、人口減少による乗客数の減少、人件費の増加などの事情により、A社が今後もこれまでと同水準以上の利益を上げることは見込めず、そのことをDCF法において適切に考慮すべきであるとの主張について

 Yの主張する各事情は、事業継続に伴う一般的な減収要因にとどまる。

 むしろ、東京スカイツリーの開業や、外国人観光客の増加といった利益維持・増加要因もうかがえることなどからすれば、Yの上記主張を裏付ける的確な資料はない。

(2)外部環境の影響により衰退基調であることからすれば、純資産法を採る場合であっても、簿価純資産法は妥当でなく、清算処分時価による時価純資産法がとられるべきとの主張について

 Yの主張する各事情は、事業継続に伴う一般的な減収要因にとどまる。また、仮に衰退基調にあるとしても、A社が清算に至るという事態は想定されないのであるから、清算を想定した清算処分時価方式を採ることは相当でない。

 

第4 実務上のポイント

 1 本決定の意義

 本決定の意義は、主に以下の3点にあり、これらの点において、将来の実務に対し一定の影響を持つものと評価できる。

① 非上場株式の売買価格の算定方法につき、「売主にとっての価値を算定するのに適した方式」と「買主にとっての価値を算定するのに適した方式」をそれぞれ検討したうえで、それらを折衷した方式を採用したこと。

② 「買主にとっての価値を算定するのに適した方式」を検討するにあたり、買主が会社から買取人に指定され、会社・経営陣から資料の提供を受けていることを根拠に、買主が「支配株主と一体の立場に立つ買主」であると評価したこと。

③ 「売主にとっての価値を算定するのに適した方式」を検討するにあたり、売主らが合計24.4%の議決権割合を有することに鑑み、売主が「支配株主と一般株主の中間的な立場に位置する株主」であると評価したこと。

 

2 本決定の実務への影響について

(1)株主の属性について

 本決定を踏まえれば、株主には、少なくとも、①支配株主、②支配株主と一体の立場に立つ株主、③支配株主と一般株主の中間的な立場に位置する株主、④一般株主の4種があり、そのいずれに該当するかにより、妥当する算定方式が異なり得ることになる[2]

 したがって、買主・売主の双方において、自己及び相手方が上記のいずれに該当するのかについての主張・立証が重要となる。

 これに関して、本決定が興味深いのは、本件のYが、会社から買取人に指定され、会社・経営陣から資料の提供を受けていることを根拠に、Yが「支配株主と一体の立場に立つ買主」であると評価した点である。多くの同種事例においては、指定買取人は、会社から買取人に指定され、かつ、会社から資料・情報等の提供を受けて事件を遂行するであろうから、本決定に従えば、指定買取人の多くが「支配株主と一体の立場に立つ買主」と評価され得ることとなる。

 もちろん、本決定の上記判断は、あくまでも本件の事情を前提とした事例判断に過ぎないから、同種事例において必ずしも同様の判断がなされるとまでは考えられない。

 しかし、売買価格を低く抑えたい買主としては、「支配株主との一体性」を否定する事情について具体的に主張・立証することにも留意すべきであろう。

(2)将来の減収要因について

 本件においてYは、A社の将来の減収要因について様々な事情を主張していたが、いずれも一般的・抽象的な事情に過ぎず、本決定においては「事業継続に伴う一般的な減収要因にとどまる」として排斥されている。

 このことからすれば、将来の減収要因が具体的に存在する事案においては、当該要因の現実性について、具体的な裏付けのある主張を行うことが重要といえる。



[1]公認会計士による株式評価の実施、報告について取りまとめたガイドラインとして、日本公認会計士協会が発行するガイドライン

[2]なお、買主・売主の双方が「一般株主」(上記④)の場合には、将来の配当に対する期待を売買するのと同視できるとして、配当還元法を単独で採用するのが相当と判断した事例として、大阪地決平成27年7月16日金判1478号26頁

弁護士 坂本龍亮

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