加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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コーポレート・ガナバンス入門27 -フジテック社外取締役解任-

私が生まれ育った大阪郊外の街からは、大きな煙突様の塔が見えました。

その塔は、橙色と白色で交互に塗装され、縦に片仮名で「フジテック」との大きな文字がありました。

小学生の頃でしょうか。自転車で走り回っているうちに自分たちが何処にいるのか分からなくなり、陽も落ちてきて皆が少し心細くなってきたとき、「フジテック」の塔を探しました。その方向に向かってペダルを漕ぎ続けると、見知った風景の処まで戻ることができ、ホッとしたことが何度かあったことを覚えています。

フジテックがエレベーターの会社であって、あの煙突のような塔がエレベーターの実験塔であることを知ったのは大人になってからのことです。

そのフジテックが揺れています。

昨年来、香港の投資ファンドであるオアシス・マネジメントとフジテック経営陣との対立が続いています。

オアシスは、昨年の定時株主総会前に、フジテックの創業家である内山家とフジテックとの間で「多数の疑わしい関連当事者取引がある」などと主張し、当時社長だった内山高一氏の再任反対を呼びかけていました。

フジテックは総会直前に内山氏の選任議案を撤回したのですが、総会後の取締役会で内山氏を会長に就任させたのです。

これに対し、オアシスは激しく反発しました。

内山氏の会長就任を認めた社外取締役の解任を要求したのです。

そして、オアシス側が招集を請求して開催された3月24日の臨時株主総会では、オアシス側が提案した現任社外取締役5名の解任議案(第2号議案)のうち、取締役会議長を務める社外取締役等3名について解任決議が可決されました。

この臨時総会では、新たな社外取締役の選任議案、会社提案として2名(第1号議案)、オアシス側提案として6名(第3号議案)についても採決されましたが、会社提案は2名ともに否決、株主提案はうち4名が可決されました。

その結果、フジテックの取締役は岡田隆夫社長等社内取締役3名、現任の社外取締役が2名、新任のオアシス側提案の社外取締役が4名の計9名となりました。

仮に現任の社外取締役2名を会社側とするならば、会社側5名対オアシス側4名の拮抗した取締役会となります。

取締役会の運営は相当困難になることが予想されます。

なお、臨時総会ではオアシス側提案の取締役報酬に関する第4号議案から第7号議案についても採決されており、第4号議案、第5号議案は可決、第6号議案、第7号議案は否決されています。

株主総会招集通知

臨時株主総会決議の結果


ここからは一寸会社法の話です。

上場会社等の取締役会設置会社においては、取締役会決議により株主総会の目的事項(議題)を定める必要があります(会社法298条1項2号、4項)。そして、株主総会においては、会議の目的事項以外の事項については決議することはできません(会社法309条5項)。そのため、取締役の解任を株主総会の議題とするためには、基本的には取締役会においてその旨決議する必要があるのです。

もっとも、取締役会が取締役の解任に反対している場合であっても、株主は株主提案権を行使し、取締役の解任議案を株主総会に提出することができます(会社法303条、305条)。

株主提案権を行使するためには、総株主の100分の1(定款で引き下げ可)以上の議決権または300個以上の議決権を6か月前(定款で引き下げ可)から引き続き保有している必要があります。

そして、株主総会の会日の8週間前までに株主提案権を行使することを要します。

この株主提案権については、通常は定時株主総会に向けて行使されることが多く、近時アクティビストによる行使が増加しており、提案株主以外の株主から一定の支持を集めることも増えています。

また、定時株主総会まで待つことができないと考える株主は、株主による株主総会招集請求権を行使することができます(会社法297条1項)。

こちらは総株主の議決権の100分の3(定款で引き下げ可)以上の議決権を6か月前(定款で引き下げ可)から引き続き保有している株主に限られます。

この株主総会招集請求権を行使したにもかかわらず、請求後遅滞なく招集手続きが行われない場合、または請求があった日から8週間以内の日を会日とする株主総会の招集通知が発せられない場合には、株主は自ら裁判所の許可を得て株主総会を招集し、解任議案を提出することができます(会社法297条4項)。

そのため、実務上は招集請求を受けて会社が臨時株主総会を招集することが一般的です。

フジテックの臨時総会についても、オアシス側の株主総会招集請求権および株主提案権の一つである議案の要領通知請求権(会社法305条1項)を行使したことから、フジテックが招集したものなのです。

オアシス側は17%超のフジテック株式を保有していたということですから、多くの機関投資家等の株主が、オアシス側の主張に賛同し議決権を行使したと考えられます。

議決権行使助言会社であるISSが株主提案に賛成するように推奨したことが影響を与えたのではないかとの分析もあります。

一方、同じく議決権行使助言会社であるグラスルイスは、解任議案、選任議案共に、人物ごとに賛成・反対の推奨を使い分けています。

当社臨時株主総会の付議議案に関する議決権行使助言会社GlassLewisの賛否推奨に対す当社の見解

グラスルイスの推奨と決議の結果が相当一致していることに鑑みても、議決権行使助言会社の影響力は否定できません。

フジテックの件という意味ではありませんが、議決権行使助言会社に対しては、助言策定プロセスが不透明、基準が形式的で個別の企業の事情について理解が乏しいといった批判が根強くあります。

会社の将来について何ら責任を負うことがない議決権行使助言会社の影響力が強い現状に、釈然としないものを感じるのは私だけではないようです。

今後のフジテックの行く末について、従業員の方々は不安な心細い想いをされていることでしょう。

幼きときに家路に導いてくれたあの塔の会社が、混乱から脱し、新たな針路に向かって力強く踏み出すことを願っております。

加藤真朗

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