加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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コーポレート・ガナバンス入門21 -カリスマの死と経営者の責任-

カリスマ経営者として知られる稲盛和夫京セラ名誉会長が亡くなられました。

弁護士である私も経営者の方々の稲森氏を信奉する声を度々聞く機会があったため、お付き合いする上での"教養"のためと思い「生き方」(サンマーク出版・2004年)を手に取りました。

当時ビジネス書をほとんど読んでおらず、ごく軽い気持ちで読み始めたのですが、その高い精神性・倫理性に感銘を受けました。

その後何冊か著作を読ませて頂きましたが、強い信念、責任感に基づき実現するまでやり抜くその姿勢には頭が下がります。

職業は異なるものの、学ぶべきものが多くあります。

稲森氏は創業者ですが、歴史を重ねた多くの上場会社では内部から昇進された方が社長を務めています。

そうすると創業者と異なり、既に出来上がっている組織が前提ですから、どうしても前例や色々なしがらみなどがあって強いリーダーシップを発揮しづらい環境にあります。

なかなか大胆な施策を打ちにくい面もあるのではないでしょうか。

しかし、コーポレートガバナンス・コードは、経営者に適切なリスクテイクを求めています。

日本経済の停滞の一因として、迅速・果断な意思決定を怠ってきたことがあるとの問題意識に基づくものです。

「コーポレートガバナンス・コード原案」序文の本コード(原案)の目的7では以下のとおり述べられています。

会社は、株主から経営を付託された者としての責任(受託者責任)をはじめ、様々なステークホルダーに対する責務を負っていることを認識して運営されることが重要である。本コード(原案)は、こうした責務に関する説明責任を果たすことを含め会社の意思決定の透明性・公正性を担保しつつ、これを前提とした会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて、いわば「攻めのガバナンス」の実現を目指すものである。本コード(原案)では、会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている。

そして、これに続く段落ではいわゆる経営判断原則を意識した表現が使われています。

経営判断原則とは、取締役に結果責任を負わせると取締役の経営判断を萎縮させることから、設備投資やМ&Aなどの経営判断事項について取締役の裁量を広く認めるべきとの考えから導かれた判例法理です。

概ね、当時の状況下において、取締役に一般的に期待される水準に照らし、①当該判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがあったか否か、②その事実認識に基づく意思決定過程および内容が不合理なものであったか否かという基準で取締役の責任の有無を判断するものです。

最高裁も以下に述べるアパマンショップホールディングス事件(最判平成22年7月15日判タ1332号50頁)において経営判断原則の適用を認めています。

アパマンショップホールディングスは、事業再編計画の一環として66.7%の株式を保有するA社の株式を他の株主から一株5万円で任意交渉をして買取ることとし、買取りを実施しました。これに対し株価5万円は高額すぎるとして、経営陣の善管注意義務違反を主張して株主代表訴訟が提起されました。

一審は善管注意義務違反を否定し、控訴審は善管注意義務違反を肯定しましたが、最高裁は経営判断原則を適用し、「判断の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない」として善管注意義務違反を否定したのです。

このように、経営者は適切な検討プロセスを経ていれば余程おかしな判断をしない限り、株主代表訴訟を提起されたとしても損害賠償責任を負うことはありません。

それゆえ、経営者の皆様には迅速・果断な意思決定により適切なリスクテイクをして、日本社会を覆う閉塞感を打破して頂きたいものです。

   

この8月19日には、法律界のカリスマである潮見佳男京都大学教授が亡くなられました。

100年に一度の大改正と言われる民法(債権法)改正で主導的役割を果たされたと言われています。

私はある裁判で提出する意見書の作成を潮見先生に依頼したことがあります。その際にお目にかかったことがあるのですが、"天才"と称されることもある先生ですが、とても謙虚でいらっしゃったことが印象に残っています。

ご冥福をお祈り申し上げます。

加藤真朗

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