ウクライナの善戦によりロシアの当初の目論見は破綻したようです。
しかし、プーチン大統領が核使用を示唆するため、NATOの参戦は叶わず、ロシア・ウクライナ戦争はいつ終結するのか見えません。
岸田総理は、ロシアのウクライナ侵攻を受けてのいわゆる核共有について、議論することも考えていないと明言したと報じられました。
被曝地広島出身の岸田総理の強い信条の表れでしょうが、民主主義国家で議論さえしないというのはいかがかとは思います。
また、個人的には議論すること自体が、日本の安全保障にとって一定の意味を有するのではないかと考えます。
弁護士として裁判または裁判外で色々な交渉を経験してきましたが、交渉相手の取り得る手段が読める場合には交渉は比較的容易ですが、読めない場合には相当慎重(抑制的)に動く必要があります。
出方によっては核保有もあり得ると認識させること自体、日本の脅威となり得る国々の行動を慎重にさせる効果があるのではないでしょうか。
ところで、その岸田内閣は「新しい資本主義」というものを提唱しています。
未来を切り拓く「新しい資本主義」 | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)
そこでは「成長と分配の好循環」、「分配なくして次の成長なし」と銘打っていますので、「分配」を重視していることは明らかです。
これは、労働者の賃金を上昇させることができずに格差を拡大させたとのアベノミクスに対する批判を受けてのものでしょう。
第4回で説明したとおり、日本の場合は、終身雇用、年功序列の下で出世競争に勝ち残ったサラリーマン経営者が、会社相互または銀行との間で株式を「持合い」することによって、株主(投資家)をさほど気にすることなく経営することができました。
このような従業員との連続性のある経営者は、我が国が経済成長下にあったことと相まって、(一部異論もあるでしょうが、)従業員を大切にする経営をしてきたと言われています。
一方、株主に対する配当、そして経営者の報酬は欧米と比較して低く抑えられていました。
しかも、日本はもともと、「三方よし」という言葉が根付いているとおり、資本主義ではあるものの、自らの利益だけでなく取引先や社会の利益を考慮する土壌がありました。
そのため、日本の会社は、米英型(アングロサクソン型)のいわゆる株主主権モデルと異なり、従業員を中心として取引先や地域社会といったステークホルダーをも重視した日本型モデルとして発展してきたのです。
これが「一億総中流」や「世界で最も成功した社会主義」と言われる一昔前の日本社会、"日本型資本主義"を形成した大きな要因でしょう。
しかし、バブル崩壊後の一連の政策の失敗、急速なグローバル化の進展、歯止めがかからない少子高齢化などにより、我が国の経済の低迷は長期化してしまいました。
株式の保有構造についても株式の相互「持合い」が大幅に解消され、機関投資家、特に海外機関投資家の株式保有比率が増加しました。
日本型雇用の根幹である終身雇用、年功序列も相当揺らいできています。
安倍政権はこのような状況下で成長戦略の一環としてコーポレート・ガバナンス改革を中核に据えました。株主(投資家)の影響力(圧力)によって会社の持続的成長を図り、株主を中心として従業員等のステークホルダーにも広く利益をもたらそうとしたのです。
すなわち、低迷する日本型モデルから世界を席巻するアングロサクソン型の株主主権モデルの方向へ誘導しようとしたのです。
そして、2015年のコーポレートガバナンス・コード導入以降、実際に上場会社のコーポレート・ガバナンスは大きく変化しています。とくに株主(投資家)の利益の代弁者であることが求められる社外取締役の急増は目を見張るものがあります。
また、コーポレート・ガバナンス改革の効果なのかどうかは別にしても、アベノミクス下で企業業績は回復し、雇用も守られ、株主に対する配当は大幅に増えました。
しかし、従業員の賃金は、皆様ご存じのとおり、残念ながら上昇しませんでした。
これに対するいわば反動として「分配」を強調しているのが岸田政権です。
株主主権の方向に舵を切ったアベノミクスに対して、岸田政権の「新しい資本主義」がコーポレート・ガバナンス改革にどのような影響を与えるのか注視する必要があります。
私個人的には、現在のコーポレート・ガバナンス改革のすべてを肯定的に捉えているわけではありません(別の機会に書きたいと考えています。)。
しかし、負の面、デメリットばかりに目を向け、思考停止に陥る、結局何もしない、現状維持のままというのが最悪だと考えます。
世の中は常に変化の波に曝されています。
現状を維持したいと考えるのであれば、その波に乗れるように変化し続けなければなりません。変化しなければ沈んでいくだけです。
より良いコーポレート・ガバナンスはいかなるものか議論し続けなければなりません。
加藤真朗
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