前回、稼ぐことができない社長・CEOなら交替させてさせてでも稼ぎなさい、という社長・CEOにとっては恐ろしいスタンスがコーポレートガバナンス・コードと説明いたしましたが、何をしてでも稼ぎなさいと言っているわけでは決してありません。
当然のことながら、法令に違反することは許されません。
それでは法令に違反していなければ何をしてもよいかというと、そうではありません。
上場会社といえどもこの社会があってこその存在だからです。
そもそも、コーポレート・ガバナンスとは、広義では企業と社会の関係性と定義されることがあります(狭義では会社に対する統治の仕組み。)。
コーポレートガバナンス・コードでも、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味すると定義づけられています。
すなわち、会社と社会の関係は切っても切れぬものであって、コーポレート・ガバナンスは、その適切な関係を構築するためのものとも言えるでしょう。
『ステークホルダー』(利害関係者)という言葉も広く普及しましたが、コーポレートガバナンス・コードでは、第2章において、「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」を定めています。
【基本原則2】 上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。 取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動 倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。
このように基本原則2では、ステークホルダーとして従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会が列挙されていますが、これに限られる趣旨ではありません。
今や企業活動は世界に拡がっており、大げさに言ってしまえば、この世界に住む人々は皆ステークホルダーと言うこともできなくはありません。
このような捉え方からすると、気候変動問題や人権問題がコーポレート・ガバナンスの文脈で語られることについても特に違和感がないのかもしれません。
そして、実際にコーポレートガバナンス・コードは、原則2-3において以下のように定めています。
「上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである。」
まさに、ESG(Environment環境・Social社会・Governance企業統治)の"E"と"S"への対応を強く求めているのです。
これを受けて今、上場会社はいわゆるESG経営のために慌ただしく動いています。
コーポレートガバナンス・コードは、サステナビリティへの対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題(補充原則2-3①)と位置付けていますが、多大なコストを要する側面もあって一筋縄ではいかないでしょう。
資源大国であるロシアによるウクライナ侵攻もサステナビリティへの対応に負の影響を与えるかもしれません。
稼げ、稼げと声高に追い立てられながら、サステナビリティ、ESG、SDGsと唱える声もどんどん大きくなる現状、上場会社の経営者というのはなかなかしんどいお仕事と思うのは私だけではないはずです。
加藤真朗
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