設立時や新株発行時に発行される株式を引き受けて原始株主となる者が会社に対してなした会社法121条所定の事項の株主名簿記載請求が認容された事例
東京高判令和元年11月20日 金判1584号26頁
原審:長野地裁佐久支判平成31年2月5日 金判1584号34頁
第1 判決の概要
本件は、X社がY2社の発行済株式総数1200株のうちY1が自己が株主であると主張する622株(本件株式)につき、X社が自己が真実の株主であると主張して、Y1に対し、本件株式の株主であることの確認を求め、Y2社に対し、本件株式の株主であることの確認、及び本件株式の原始株主たる地位に基づき、会社法121条所定の事項を株主名簿に記載するよう求めた事案である。
本件では、Y1名義となっている本件株式が名義株であるか否かが争点となったところ、本判決は、本件株式が名義株であり、真の株主はX社であることを認め、X社の請求をいずれも認容した。
(参照条文) 会社法121条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(・・・)を記載し、又は記録しなければならない。 一 株主の氏名又は名称及び住所 二 前号の株主の有する株式の数(・・・) 三 第1号の株主が株式を取得した日 四 株式会社が株券発行会社である場合には、第2号の様式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号 会社法132条 1 株式会社は、次の各号に掲げる場合には、当該各号の株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。 一 株式を発行した場合 会社法133条 1 株式を当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者(当該株式会社を除く。以下この節において「株式取得者」という。)は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。 2 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。 会社法施行規則22条 1 法第133条第2項に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。 2 前項の規定にかかわらず、株式会社が株券発行会社である場合には、法第133条第2項に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。 一 株式取得者が株券を提示して請求をした場合 |
第2 事案の概要
Aは、X社を経営していたところ、銀行に対して負う債務の額だけでも約10億円になっていたことから、X社の事業を新会社に移転して、当該銀行の影響下から離れて事業再建を図るため、平成18年8月17日、発起人をB及びC、1株5万円、設立時発行株式200株を各100株ずつ引き受けることとして、Y2社を設立した。なお、Y2社は、株券不発行会社かつ非公開会社である。
かかる設立に際し、Aは、X社名義の普通預金口座から1000万円を引き出し、BとともにY2社の設立時の株式払込口座として、B個人名義の口座を開設し、1000万円を入金させた。その後、同口座から設立費用として34万円が引き出され、残高全額がY2社の普通預金口座に送金され、同口座は解約されている。
なお、B及びCは、発起人及び株式引受人として名前を貸しただけで、真の株主はX社であると認識していた。
Y2社は、新株1000株を発行することとし、Aは、同年9月21日、X社名義の普通預金口座から5000万円の払戻しを受け、Y2社名義の普通預金口座に入金した。
Y2社の第1期(平成18年8月17日から同月31日まで)の同族会社等の判定に関する明細書には、平成18年9月20日よりY2社の代表取締役となったY1及びCが各100株の株主であると記載され、第2期(平成18年9月1日から同月30日まで)の同明細書には、Y1が1100株、Cが100株の株主と記載されていた。なお、Y2社では、本件訴訟に至るまで、株主名簿は作成されていない。
その後、Y2社では、税務申告書添付の同族会社等の判定に関する明細書上Y1名義となっている株式のうち478株とC名義となっている株式全部(100株)をY2社に移転するという会計帳簿上の操作を行った。そして、Y2社に移転した株式578株の全部を、退職金未払金の債権者たる従業員らに移転する代わりに、移転する株式につき1株当たり5万円相当分を退職金未払金から減額するという会計帳簿上の操作をした。これらの記載は、貸借対照表や会計帳簿の中での帳尻合わせを行ったものに過ぎなかった。株主と記載された従業員ら11名は株式578株の株主と認識していなかった。
AとY1との間が険悪となり、X社は、Y1に対し、本件株式につき、X社が株主であることの確認を求め、Y2社に対しては本件株式につきX名義に株主名簿を書き換えることを求め提訴した。
これに対し、Yらは、出資金の6000万円については、Y1とAとの協議の結果、各出資時に遡って、X社からY2社が借入れ、それをY2社から各株主が借り入れて、各株主が当該借入金を原資として払い込んだものと扱うことになったこと、その後、Y1は、当該借入金をY2社に返済したとして、Y1が本件株式の真の株主であることなどを主張し、X社の請求を争ったが、原審は、Xの請求を認容したので、Yらは控訴した。
これを受けて、X社も附帯控訴を行い、併せてY2社に対し、X社が本件株式の株主であることの確認を求める訴えを追加するとともに、株主名簿書換手続きを求める訴えを取り下げ、交換的に、本件株式の原始株主たる地位に基づき、会社法121条の株主名簿記載事項として、株主名簿に、X社の名称及び住所、その有する株式の数及び株式取得日を記載することを求める訴えを追加した。
第3 判旨
1 本件株式について
本判決は、まず、最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁を参照し、本件株式のうち設立時発行の株式200株について、BとCの承諾を得てその名義を用いて実質上の株式払込人となり、1000万円を株式払込金としてY2社に払い込んだものであるとして、X社に株主権が帰属する旨判断した。
次に、本判決は、本件株式のうち設立後発行された1000株について、X社は、自ら募集株式の引受人となり、又は他人の承諾を得てその名義を用いて実質上の株式引受人となり、5000万円を株式払込金としてY2社に払い込んだものと推認することができるとして、X社が原始株主となったものである旨判断した。
2 株主名簿記載事項の記載請求について
原審では、X社のY2社に対する会社法133条1項に基づく株主名簿書換請求を認めていたが、本判決は、原審の株主名簿書換請求を認容した点は失当であると述べたうえ、以下のように述べてX社の新請求(株主権確認請求及び株主名簿記載事項の記載を求める請求)はいずれも理由があるとして、X社の請求を認めた。
「株式会社が設立や新株発行時に発行する株式を引き受けて原始株主となる者は、会社法133条ではなく、同法132条1項の規定により、株式会社に対して株主名簿記載事項を株主名簿に記載することを請求することができる。この場合は、同法133条の場合と異なり、単独で申請することができる。」
第4 実務上のポイント
1 株主権確認について
本判決は、設立時発行の株式200株について、定款上、BとCがそれぞれ100株ずつ引き受けたこととされているところ、これは、X社がB及びCの承諾を得てその名義を用いて株式引受人となり、X社が1000万円を株式払込金としてY2社に払い込んだものであると判示して、X社が原始株主となったと認定した。本判決中でも参照されているように、名義株の帰属について、他人の承諾のもとにその名義を用いて株式の引受がされた場合においては、名義貸与者ではなくて、実質上の引受人が株主となるものと解すべきであると判示した前掲最判昭和42年11月17日がある。本件では株式の出捐を行ったのがX社であり、B及びCのいずれも真の株主はX社であると認識していたことから、X社が原始株主であると判断されたものと解される。
また、その後発行された1000株について、本判決の判示からは誰が名義上の引受人となったのかが明らかでない。もっとも、当該新株発行の払込金5000万円については、X社が払い込んだことが認定されている。本判決は、当該1000株については、X社が自ら募集株式の引受人となり、又は他人の承諾を得てその名義を用いて実質上の株式引受人となり、5000万円を株式払込金として、Y2社に払い込んだものと推認することができるとして、X社が原始株主となったものであると判断した。本判決の判示からはかかる判断に至った理由が明らかでないが、名義上の引受人がいずれの者であったとしても、本件で現れた一切の事情に鑑みると、X社が株主であることが認定できた事案であったことが考慮されたのであろう。
なお、本判決は、Y1から、本件株式の払込金について、X社からY2社を介してY1が借り入れて払い込んだものであるなどと主張されていた点に関しては、消費貸借契約書等が作成されていないことなどを理由に排斥している。
2 株主名簿書換請求について
本判決では、X社が、株主名簿が作成されていること、及び本件株式6000株の原始株主であることを前提として、原審では会社法133条1項に基づき、Y2社に対して株主名簿書換請求を求めていた。ところが、Y2社では、株主名簿は作成されていなかった。また、会社法133条1項は、既に株主名簿が作成されている場合において、株式を発行した株式会社以外の者から株式を取得した時に、当該株主名簿の記載事項の記載の変更を求める請求権を規定したものである。さらに、会社法133条1項の請求を行う場合、株券発行会社においては株券を提示することで単独請求が可能であるが(同項、会施規22条2項1号)、株券不発行会社においては、会社法133条1項に基づく請求を行う場合、前株主との共同請求が原則である。
原審には、以上の点を看過して、X社のY2社に対する会社法133条1項に基づく請求を認めた点に問題があった。
控訴審では、この点が問題の俎上に載ったためか、X社は、Y2社に対し、本件株式の株主であることの確認を追加し、さらに株主名簿書換請求を取り下げたうえで、交換的にX社を本件株式の株主であることを株主名簿に記載することを求める訴えに変更した。これを受けて、本判決は、X社の請求を全部認容した。
3 今後について
株主の地位が争いとなり、株主名簿の記載を求める事案の場合は、問題となっている株式につき原始取得が問題となる事例であるのか、それとも承継取得が問題となる事例なのかを分析して、適用条文を要件とともに十分確認することが求められる。
併せて、株券不発行会社、又は株券発行会社であるが、株券を現実に発行していない会社において、株主権の帰属が争われているような事案の場合、株主権の推定規定が適用されないこととの関係で(会131条1項)、株主権が自己に帰属すると主張する者は、株式の帰属を争う相手方のみならず、会社に対しても株主権確認請求を行っておく方が無難である。