加藤&パートナーズ法律事務所

加藤&パートナーズ法律事務所

法律情報・コラム

法律情報・コラム

コーポレート・ガバナンス入門12 -ロシアのウクライナ侵攻と危機管理-

ロシアが圧倒的な軍事力をもってウクライナを侵略しています。

米国の軍事介入は見込めず、ウクライナは屈服せざるを得ないのが非情な世界の現実なのでしょうか。

日本は敗戦と占領により、国民の精神性・国家感といったものが劇的に変わったように思われます。いわば、その前後で大きな断絶があると言えるでしょう。

しかし、世界の多くの国々、とくに戦勝国における意識は、あくまで連続しているものであって、緩やかに変化はしているでしょうが、それほど大きくは変わっていないのかもしれません。

ところで、広く一般に知られている心理学用語として「正常性バイアス」があります。人は根拠なく災害等の危険につき"自分は大丈夫"と思い込んでしまうようです。

危機管理の成功例より失敗例が多く目につくのも、このような人間の脳の働きが一因かもしれません。そうだとすると、より強く意識して危機管理に取り組む必要があります。

一説によると、首都直下型地震は今後30年間で70%の確率で発生すると言われています。同様に、南海トラフ地震、富士山噴火など極めて大きな被害が予想される天災の危険も近づいていると言われています。

海外に目を向けると、政治リスクが相当高いであろう中国に進出している日本企業数は約1万3600社、中国関連ビジネスに携わる企業が約3万社とのことです(帝国データバンク「日本企業の中国進出動向(2020)」)。

日本企業の中国進出動向(2020年) | 株式会社 帝国データバンク[TDB]

囁かれる台湾有事が現実化した場合はもちろんのこと、国際情勢の変化や中国共産党の意向によってはこれら企業は大きな影響を受けてしまいます。

ほかにも、DXの進展とともにさらにリスクが拡大すると考えられるサイバー攻撃など、企業を取り巻くリスクを上げていくと、こちらが先に滅入ってしまいます。

これら数多のリスクに囲まれていたとしても、リソースは有限です。すべての危機を予測して万全の対策をとることなど不可能です。

また、危機管理が短期的に利益を生むわけではありません。

しかし、だからと言って、対策をお座なりにするわけにはいきません。

リスク評価に基づき費用対効果を勘案した上で、優先順位をつけて着実に実行し続ける必要があります。

"Too late too little"と揶揄される我が国の政策でも、遅ればせながら経済安全保障推進法案が閣議決定されました。

teigen.pdf (cas.go.jp)

今の時代『サステナビリティ』というと"脱炭素"、"環境"という言葉がすぐに頭に思い浮かびます。

しかし、真の『サステナビリティ』のためには、それだけでなく、国家であれ企業であれ、程度の差はあっても、楽観論や視野狭窄、横並び主義に陥ることなく、中長期を見据えた危機管理体制を自律的に構築する必要がある。

ロシアの暴挙を目の当たりにして、確信します。

ウクライナの人々に平和な日々が戻ってくることを心より願っております。

加藤真朗

コーポレート・ガバナンス入門1 -自民党総裁選とコーポレート・ガバナンス-

コーポレート・ガバナンス入門2 -アベノミクスとコーポレート・ガバナンス改革-

コーポレート・ガバナンス入門3 -ノーベル物理学賞と2021コーポレートガバナンス・コード改訂-

コーポレート・ガバナンス入門4 -金融所得課税強化と上場会社の株主構成の推移-

コーポレート・ガバナンス入門5 -機関投資家の影響力拡大とスチュワードシップ・コード-

コーポレート・ガバナンス入門6 -関西スーパー争奪戦① M&Aの手法-

コーポレート・ガバナンス入門7 -関西スーパー争奪戦② バトル!第2ラウンドの始まり-

コーポレート・ガバナンス入門8 -関西スーパー争奪戦③ 舞台は大阪高裁へ-

コーポレート・ガバナンス入門9 ―関西スーパー争奪戦④ 大阪高裁で逆転!―

コーポレート・ガバナンス入門10 ―関西スーパー争奪戦⑤ 勝者はどっちだ?―

コーポレート・ガバナンス入門11 -守りのガバナンス 公益通報者保護法改正で充実が期待される内部通報制度―

コーポレート・ガナバンス入門13 -B型肝炎訴訟と会社の営利性-

コーポレート・ガナバンス入門14 -稼ぐだけでは不十分?・ESG経営-

コーポレート・ガナバンス入門15 -新しい資本主義とは何なのか?-

コーポレート・ガナバンス入門16 -東芝不正会計集団訴訟判決とクローバック条項-

コーポレート・ガナバンス入門17 -Board3.0とは何なのか?-

コーポレート・ガナバンス入門18 -伊勢田道仁著『基礎講義会社法』-

コーポレート・ガナバンス入門19 -資産所得倍増プランと資本コスト-

コーポレート・ガナバンス入門20 -株主代表訴訟とは何なのか?-

コーポレート・ガナバンス入門21 -カリスマの死と経営者の責任-

コーポレート・ガナバンス入門22 -メンバーシップ型雇用とモニタリング・ボード-

コーポレート・ガバナンス入門23 -監査等委員会設置会社とは何なのか?-

コーポレート・ガバナンス入門24 -社外取締役とは何なのか?-

コーポレート・ガナバンス入門25 -上村達男著『会社法は誰のためにあるのか 人間復興の会社法理』-

コーポレート・ガナバンス入門26 -物価高騰と人的資本-

コーポレート・ガナバンス入門27 -フジテック社外取締役解任-

トップへ戻る