2 時系列
本件事案について時系列で少し詳しくまとめてみました。
平成18年6月 Y社経理担当部長であったXが、前任者の残任期を引継ぐ形で常勤監査役に選任される(報酬月額55万円)。当時は他に非常勤監査役が選任されており(報酬月額15万円)、27年5月までは監査役2名体制。
19年6月 X、Y社常勤監査役重任。
21年7月 Zホールディングス設立。X、同社監査役に就任。その他Zグループ傘下の会社の監査役として最多時で10社兼任。但し、監査役報酬はY社からのみ支払われていた。
同年9月 Y社臨時株主総会、監査役報酬額を月額100万円以内に改訂する旨決議。Y社は10月からXの報酬月額を63万円に増額。その後24年6月から64万円、26年6月から65万円に増額。
23年5月 X、Y社常勤監査役重任。
27年5月 X、Y社常勤監査役重任。非常勤監査役は選任されず1名体制になった。
同年12月 Zホールディングス代表取締役会長兼Y社代表取締役会長から、XのZホールディングス監査役任期が29年5月に満了することを理由に、Y社においては28年から非常勤監査役として1年間勤務し29年5月に辞任することを提案されたが、Xはこれを拒否。
28年6月 X、報酬額を100万円に決定し(本件増額決定)、Y社に対しその旨の報酬通知書を提出。しかし、Y社は従来通り月額65万円を支払った。なお、Xは19年から26年まで毎年報酬協議書を、27年には報酬通知書を提出していた。
29年5月 X、Y社常勤監査役解任。Xは「私の解任には、会社法第339条2項にいう正当な理由はありません。」との意見陳述を提出。
なお、総会に先立って、Y社社長から辞任の意向を確認されたXは、「監査役の任期というのは法律で決まっておりますので、それを辞任というのはあまりにひどいだろうという話ですね。」、「会社の都合で法令を犯してですね、辞任などということはあり得ないでしょう。」、「法令遵守を標榜する会社において、役員の任期を代表取締役が株主総会の意図を受けずに短縮をしてしまう。ましてや監査役の任期を短縮してしまう。これは私には考えられないことですね。」と返しています。
Xの筋を通す強さが表れています。
3 争点
本件訴訟で争点となったのは以下の5点です。
①X一人で監査役報酬額の決定ができるか?
1で紹介したとおり、会社法では「監査役が二人以上ある場合に・・・報酬等は・・・監査役の協議によって定める。」ことになっており、監査役が一人の場合の定めはありません。そこで、一人の場合も、監査役自身が報酬額を決めることができるのかという点が争点になったのです。
②監査役任期の途中に報酬の増額ができるか?
監査役の任期は4年です。Xはその任期の途中で報酬増額を決めています。そこで、任期の途中であっても報酬の増額ができるのか問題になったのです。
③本件解任決議に正当理由があるか?
先に述べたとおり、監査役であっても株主総会決議でいつでも解任できます。但し、正当理由がない場合には解任された監査役は会社に対し損害賠償請求ができることでバランスがとられています。そこで、本件では正当理由があるか否かが大きな争点となりました。
④Xの損害額はいくらか?
Xは解任された後の残任期の報酬に加え、退職慰労金、功労金について支給された額は過少だとして、独自に計算した支給されるべき額との差額を損害と主張しました。ここでも、本件増額が有効か否か、すなわち月額100万円か65万円かが問題となっており、①②の争点と大きく関係します。
⑤本件増額決定がXの善管注意義務に違反するか?
Y社は、本件増額決定について、Y社の株主の合理的意思に反する、不合理なものであるとして、Xの善管注意義務違反を主張していました。③の正当理由の有無とも関係ある争点です。
加藤真朗
(続く)
監査役の独立Ⅰ ―千葉地裁令和3年1月28日判決・金判1619号43頁①―