加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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監査役の独立Ⅰ ―千葉地裁令和3年1月28日判決・金判1619号43頁①―

監査役の独立は重要です。

いきなりそう言われても困る、独立ってどういう意味、誰から独立するの、と思われる方もいるかもしれません。

監査役の独立、それは代表取締役社長を筆頭とした取締役から監査役は独立していなければならないという意味です。

それはなぜか、監査役の役割は、取締役の職務執行を監査することだからです(会社法381条1項前段)。監査する立場が、監査対象である取締役から独立していなくては実効性のある監査はできません。「忖度」という言葉がすっかりポピュラーになりましたが、監査対象者に忖度ばかりしているようでしたら、まともな監査ができないことはお分かりいただけると思います。

このように重要である監査役の独立に関し、今般興味深い裁判例が判例誌に掲載されました。監査役の独立に関する裁判例が公刊されるのは大変珍しいことですので、ご紹介します。

1 事案

  事件の舞台は、ある企業グループに属する自動車や自動車部品の販売をしている会社です。その会社をY社、企業グループをZグループ、持株会社をZホールディングスと呼びます(といいますか、判例誌でそのように表記されています。)。

Y社の常勤監査役であるXは、ZグループのトップであるZホールディングス代表取締役会長から、監査役任期の途中で辞任するように提案されました。ところがXはこの提案を拒否しました。トップに反旗を翻したのです。そのため、Xは株主総会で監査役を解任されてしまいます。

そこで、Xは、解任には正当理由がないとして、Y社に対し、残任期満了までの監査役報酬等について損害賠償を求め、提訴したのです。

会社法では監査役の任期は4年と定められています(会社法336条1項)。

しかし、任期途中であっても株主総会の特別決議で解任することができます(会社法339条1項)。その代わり、解任された監査役は、解任に正当理由がない場合には、会社に対して損害賠償を請求できるのです(会社法339条2項)。

  また、この裁判では、監査役報酬の決め方についても大きな争点となりました。

会社法では、監査役の報酬は定款又は株主総会で決めるルールです(会社法387条1項)。これは監査役の独立のため、取締役に監査役の報酬を決めさせないためです。

そして、実務上は、監査役個人別の報酬を株主総会決議で決定するのではなく、最高限度額を定めます。この場合、会社法では、監査役が複数いるときはその協議によって個別の報酬を定めることとなっています(会社法387条2項)。

Y社においては監査役2名体制の時期に株主総会決議により監査役報酬の最高限度額が月額100万円と定められていました。そして、実際の報酬月額は経営陣が決めていました。

ところが、Xは、監査役一人となった時期に自己の報酬額を最高限度額である月額100万円と決めました。Y社は、従前どおりの月額65万円しか支給しませんでしたので、Xは、その差額についても未払い報酬として請求したのです。

 関係する会社法の条文は以下の通りです。

(解任)

第339条 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。

 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

(監査役の報酬等)

第387条 監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

 監査役が二人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監査役の協議によって定める。

加藤真朗

(続く)

監査役の独立Ⅱ ―千葉地裁令和3年1月28日判決・金判1619号43頁②―

監査役の独立Ⅲ ―千葉地裁令和3年1月28日判決・金判1619号43頁③―

監査役の独立Ⅳ―天馬事件①―

監査役の独立Ⅴ―天馬事件②―

監査役の独立Ⅵ―天馬事件③―

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