加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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コーポレート・ガバナンス入門3 -ノーベル物理学賞と2021コーポレートガバナンス・コード改訂-

 先日、今年のノーベル物理学賞の受賞者に、真鍋淑郎氏が選ばれたとのニュースが流れました。日本人28人目とのことで喜ばしい限りです。

 真鍋氏の研究は、大気と海洋を結合した物質の循環モデルを提唱し、二酸化炭素が気候に与える影響を世界に先駆けて明らかにするなど地球温暖化研究の根幹となるものとのことです。1960年代から地球の気候に関するモデルの開発をリードしていたとのことですから、その先見性に驚愕します。

 自分も真鍋先生の1000分の1程度でも先見性があったらなぁ、と無い物ねだりをしてしまいます。

 真鍋氏が古くから研究していた気候変動問題は、既に看過できないレベルの課題であると、私のような鈍感な人間でも思わざるを得ません。夏の異常な暑さや大雨による災厄を見せつけられると、一般人であってもこのまま手をこまねくだけではいけないことが分かります。

 気候変動問題は、コーポレート・ガバナンスの世界にも影響を与えています。

 コーポレートガバナンス・コードは2015年制定され、2018年、2021年にそれぞれ改訂されています。今年、すなわち2021年改訂においては、気候変動問題が大幅に採り入れられています。

 そもそも、コーポレートガバナンス・コードとは何か、という問いに対し一言で説明すると、「上場会社向けの行動原則」ということになります。これでは、何が何だか分からないとお叱りを受けるかもしれません。コーポレートガバナンス・コードには、基本原則原則補充原則が合計83定められています。そのうち、実効性のあるコーポレート・ガバナンスが備えるべき基本的な要件として、以下の5つの基本原則が定められています。

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話

 例えば、一つ目の「株主の権利・平等性の確保」であれば以下のとおり定められています。

【基本原則1】

 上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、 株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。

 また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。

 少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

 この基本原則1の下に1-1から1-7までの原則があり、そして、例えば1-1の下には1-1①から1-1③までの補充原則が定められています。

 ちなみに、気候変動問題については、補充原則2-3①3-1③が触れています。

 百聞は一見にしかず、とも申しますので、一度ネットでご覧頂けたらと思います。

 nlsgeu000005lnul.pdf (jpx.co.jp)

 私自身は、このコーポレートガバナンス・コードというのが読みにくく、なかなかストンと頭に入ってきません。

 もしかしたらその理由は、コーポレートガバナンス・コードが「 プリンシプルベース・アプローチ 」( 原則主義)を採用しているからかもしれません。この手法は、法律等のルールベース・アプローチ(細則主義)と異なり、詳細な細則は制定せず、抽象的な原則だけを定め、その原則を踏まえてどのように行動すべきかを当事者の合理的な判断に委ねるというものです。

 法律の条文を読み続けてきた職業病みたいなものなのでしょうか。

 前回説明したとおり、上場会社は、コーポレートガバナンス・コードの各原則に従う必要はありません。ただし、"コンプライ・オア・エクスプレイン"といって、各原則を実施するか、または実施しない場合にはその理由を「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」において説明しなければならないことになっています。東証第一部、第二部の本則市場は全原則について、マザーズ、JASDAQの新興市場は基本原則のみが対象となります。

 来年、2022年に控える市場区分見直しにより、東証はプライムスタンダードグロースに再編されます。そして、プライムスタンダードは全原則、グロースには基本原則が適用されます。プライムについては、2021年改訂コーポレートガバナンス・コードにより同じ原則でも高い水準が求められる場合があります。

 話は戻りますが、気候変動問題は誰しもにとって無視できないものとなっています。それもあってか、昨今ESGやSDGsといった言葉が巷に氾濫しています。個人的な感覚で間違っているかもしれませんが、これらの言葉は、ちょっと先進的、意識が高いといった"明るい"イメージで捉えられていることが多いように思います。

 しかし、実際に今後更なる対応を迫られていく企業にとって、業種によってはその存続にさえ関わる過酷な道程が待っているのかもしれません。

 特定業種だけに過重な負担を課すのではなく、社会全体で相応の負担をする覚悟が必要でしょう。

 気候変動問題に関し最近ベストセラーになった斎藤幸平氏による『人新世の「資本論」』を少し前に読みました。若きマルクス研究者が気候変動問題などの解決策を提示した話題作で、既に読まれた方も多いでしょう。私も現状の社会体制のままでのテクノロジーの劇的進化が人々の幸福に結びつくのかという疑問はありましたので、興味深く読むことができました。ただし、『マルクス信者が理想を追求すると、自由が制限される社会に行き着く。それは自由な日本に育った若い世代であっても変わりはない。』というのが一番の読後感ですが。

加藤真朗

(続く)

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